人生の振り返り

第11話 私は、いてよかったのだろうか

皆さんには、忘れられない歌がありますか。

昔は何となく聴いていたのに、歳を重ねてから、突然その歌の意味が違って聞こえてくる。

そんな歌です。

私にも数曲あります。

その中でも特に、中島みゆきさんが吉田拓郎さんのために書いた「永遠の嘘をついてくれ」という歌。

その中のある一節が、なぜか私の心にずっと残っています。

若い頃から、いつも考えていたわけではありません。

55歳になるまで、その言葉が強く頭をよぎったのは三度だけでした。

離婚したあと。

母を亡くした時。

そして、父を亡くした時。

なぜ、その時だったのか。

その頃の私には、よく分かっていなかったと思います。

ただ、何かを失った時にだけ、その歌が静かに心の中へ入ってきました。

ところが、介護の仕事を始めてからのことです。

それまで三度しか思い出さなかった言葉が、何度も何度も浮かんでくるようになりました。

「なぜだ?」

長い間、自分でもよく分かりませんでした。

人を「見守る」ということ

介護の仕事には、「見守り」という仕事があります。

私もこの仕事に入るまでは、深く考えたことなどありませんでした。

そばにいる。

できなくなったことを代わりにする。

必要としているなら、手を貸す。

でも、何でもこちらがやってしまうわけではありません。

その人が何を欲しているのか。

何をしてほしいのか。

それに気づき、必要な時に手を差し伸べる。

言葉にすれば「見守り」。

たった四文字です。

けれど、長く介護をしていると、この四文字の重さを感じるようになります。

そして時には、その見守りが、その方の人生の最後まで続くのです。

私は、何人もの利用者さんの最期をご一緒してきました。

その方の最後の時間をともに過ごし、亡くなられたあと、骨壺に収まるところまでご一緒することもあります。

そんな時です。

あの歌が、また心の中に現れます。

不思議なものです。

慌ただしく介護をしている時には思い出さない。

何か特別なことをしている時でもない。

すべてが終わり、静かになった時。

ふっと、思い出すのです。

そして私は、いつも同じことを考えます。

私は、この人の人生にいてよかったのだろうか。

もう、聞くことはできない

見守りという介護に、正解はあるのでしょうか。

私は今でも分かりません。

あの時、もっと話を聞けばよかったのではないか。

あの介助は、本当にあれでよかったのか。

もう少し違う接し方があったのではないか。

人を見送ったあとには、いろいろな思いが残ります。

でも、その答えを一番聞きたい人は、もういません。

「私がそばにいて、どうでしたか」

そう聞くことは、もうできないのです。

だからでしょうか。

私は、その人の人生の中で、自分がどんな存在だったのかを考えます。

役に立ったのだろうか。

安心してもらえただろうか。

それとも、余計なことをしてしまったのだろうか。

答えはありません。

たぶん、これからも分からないままだと思います。

嘘でもいいから

70歳になって、ようやく分かってきたことがあります。

人は、一人で生きているようで、一人では生きていません。

親。

妻。

子ども。

友人。

仕事で出会った人。

そして、介護で出会った利用者さん。

ほんの短い間しか関わらなかった人もいます。

それでも、一度出会えば、少しだけお互いの人生の中に入ります。

良い思い出を残すこともあれば、傷を残してしまうこともある。

私自身、これまでの人生を振り返れば、後悔することの方が多いのかもしれません。

だからこそ、介護をする時には思うのです。

この人の人生を、私の都合で汚したくない。

傷つけたくない。

できることなら、最後まで静かに寄り添いたい。

それでも、自分が本当にそうできたのかは分かりません。

人を見送るたび、心のどこかに小さな問いが残ります。

私は、あなたの人生にいてよかったのでしょうか。

もう、返事はありません。

だから私は、吉田拓郎さんが歌う、あの歌を思い出すのかもしれません。

本当のことなど、もう聞けない。

それなら――

嘘でもいい。

「あなたがいてよかった」

そう言ってもらえたら。

たぶん、それだけで十分なのです。

考えてみれば、これは介護だけの話ではありません。

私たちは皆、誰かの人生の途中に現れ、そして、いつか離れていきます。

その時、

「あの人と出会ってよかった」

そう思ってもらえる人でいられたのか。

70歳になった今、成功したかどうかよりも、そんなことの方が気になるようになりました。

私の人生も、そろそろ最後の直線です。

この先、あと何人の人と出会うのでしょう。

そして最後に、自分がこの世を去る時。

私と出会った人の心のどこかに、

ほんの少しでも、

「いてよかった人だった」

と残っていたら。

今は、それでいいような気がしています。

-人生の振り返り